2016年12月2日金曜日

笹口騒音&ニューオリンピックス 2020について

先日自分の参加しているバンドのCDが出た。
最近記憶力の低下がひどく、3歩歩けば昨日の夕飯のメニューを忘れてしまうので、すっかり忘れてしまわないうちにこのバンドが結成され、アルバムが作られるまでの経緯を軽く説明しようと思う。
2015年末、笹口くんはオークションサイトで何やらリズムマシンをやたらと買い込んでいた。
ちょうどうみのての活動も終了する事もあり、その行為は彼にとっての新しいバンドメンバーを探しているようで、そんな折に自分とは別のバンド(笹口騒音オーケストラ)の録音の編集でそのころ年がら年中顔を突き合わせていたので、あの機材はどう?みたいな感じでリズムマシンやシーケンサーやシンセについて色々と話をすることが多かった。
万事快調と言うわけにはいかず、オークションで落札したものは年代物のガラクタばかりでうんともすんとも動かない物もありなかなか難儀しているようだった。(ちなみに動かなかった悔しさは相当の物だったようでそのリズムマシンはソロの”YAOYA”のジャケットに登場していて転んでもただでは起きない人だなあと後に呆れるような感心するような...)

かたや自分は遡る事10年ちょっと前だっただろうか、10代の終わりに当時住んでいたアパートの隣人の韓国人の映画監督と井戸端会議をしていたらそういえばあんま使ってないけど面白い音が作れる楽器があるから音楽やってるならあげるよとアナログ・シンセサイザーをタダでもらった事をきっかけに、なんじゃこのつまみがうじゃうじゃついてる機械とも楽器ともよくわからん妙ちきりんなものは…と面食らったが、当時愛聴していた日本の伝説的パンクバンド"ほぶらきん”のようなふにゃふにゃした音がすぐに出せたのでこれは面白いとのめり込み、この楽器を使っている人達は他にどんな人がいるんだろうと調べて行った先にクラフトワークやYMO(そして、それらの素晴らしい子孫たち!)にぶつかり、それまでロック原理主義者だった自分の心の壁を揺るがし崩壊させ、僕は白旗をあげながら二股をかけることにした。
けれどもけれどもその手の電子楽器いじりはあくまで趣味の範囲でバンド活動の傍ら自宅で変な音を出すに留まり、なかなか自分のバンドや音楽にはうまく導入できなかった。未だにスタジオにシンセとリズムマシンを持って行った時の当時のバンドメンバーの”いらんもんもってきよって…"と言う心の声が聞こえて来るような呆れ顔を昨日の事のように覚えている。ロックバンドと言う物は未だに真空管アンプに60年も前から対して変わってない伝統的な設計の楽器を使うのを良しとする人も決して少なくはない事からもわかるように以外と保守的な人が多い物なのだがそのころは自分も電子楽器の扱いが下手すぎてクソみたいな事しかできなくて他の人を動かせなかったってのもあるのかもしれない。

さて、笹口くんのRadioheadに対する偏愛はわりと皆の知る所であるのですが、それゆえ自らのバンドでの表現をエレクトロニックな方向へ舵をきることについては並々ならぬ物があるようだった。しかしここからがお茶目な所なのだが「タッチパネルじゃないパソコンは全然使えないんですよ わけがわからないですよ あれは」とよく言っている事からもわかるよう、ぶっちゃけ、あまり機械に強い方ではない。しかしバンドの電化は誰もが1度は憧れる道。あいわかった、ここはひとつやってみようと自分は船に乗り込むことにした。

次に他のメンバーを探す必要があり、我々は非ロック的なアプローチでエレキギターを演奏できる人材を求めた。
そこで自分の近所に住んでいてエレキギターでボーズオブカナダの音を出す事に熱をあげている青年がいた。姓はムライ、名はタカフミという。
彼の影響を受けたバンドには確か笹口くんとの共通項があったためウマが合うのではないかとひらめき、我が家で鍋を囲みながら引き合わせた。
2人は共通の影響を受けたバンドの動画をyoutubeをぐるぐるまわし、これからやりたい事をリストアップしたりアイデアを膨らませて行った。
取り急ぎ2/29のloftでのお披露目コンサートの為に急ピッチで新曲をボコボコと作り以前のレパートリーを新たなアレンジにすることに労力を費やし、各々が今までの活動でやってみたかったけどできなかった事をこれでもかと盛り込んだ。
その甲斐あってか初ライブでも手応えを感じた我々は、結成から1ヶ月が経ち1ステージ分のライブをまかなえるだけのレパートリーを手に入れたので、いくつかライブを行い、音源の製作の構想を立てはじめた。また、ライブの際はダイナミクスを増強すべくリズム隊を加えた形態となる。

そして6月、録音がスタート。この時はまだメンバー全員が’'まぁ結成したからには音源もないとね’'みたいな居酒屋でとりあえずビールを頼むように取りかかりはじめたのだが、これが夏まで続く受難への暖簾をくぐったことになっていたとはこの時はまだ誰も気がついていなかった。

まずは既存のライブでのレパートリーより6曲(M1,2,3,5,7,8)を録音を開始。他の楽曲は製作との同時進行で録音をしていった。
通常の録音ではリズム隊に相当するパートから録音するのが慣例だが、今回はムルアイ君が仮のリズムトラックとわずかな下地の上でまずはのびのびとやってもらおうと言う事でペンキを壁にぶちまけるようにチェロの弓でギターを擦ったりありったけのエフェクターを詰めたフロアボードよりあの手この手で色を添えた。
また今回の録音で大変だったり思い出深かった事は?との問いかけに、曲によっては製作と録音を並行して行なっていた為に完成形の全容が見えていないまま録音に挑んだ曲もあり、暗中模索の状態のままへとへとになるまで即興演奏を繰り返したことなどとムライくんは言っていたが、奮闘の甲斐あり、それらの膨大な断片を再構築/再編集した事によって印象深いサウンドをアルバムに与えている。

7月初旬、笹楽器パートと自分のパートの録音開始、ここからが実に大変で、ほぼほぼ毎日顔を突き合わせ、この頃には妻よりも笹と過ごす時間の方が長く、はじめはSNSに録音なう☆最高のアルバムマスカムなどと書き込みはしゃぐ余裕があったのだがやがて非日常はただの日常となり、つぶやくこともせず黙々と各々のすべき事を記録していく。

生まれも育ちも違う人達が何かを共に作る場合につきものの話だが、お互いここは外せないと思うポイントが微妙に違っていたりすることがある。

もしも音楽を料理に例えるならば、自分は割と策士策に溺れるタイプと言うか煮詰めれば煮詰める程美味くなると考えて煮込み過ぎて焦がすタイプ、笹口くんは直感に従って選んだ具材をしゃぶしゃぶみたいにサッと湯に通すのを良しとするタイプなのかなーと感じている。
ので、片方は煮込み過ぎてぐずぐずじゃんと思ったり、一方いやいやそれまだ生煮えですやんとなった場面も少なからずあったのではないかなと記憶している。
しかしお互い美味しい料理を作ると言う目的を達成する点では同じなのでとりあえず良くなったり面白くなったりしそうな案があれば口をつぐまずに互いの意見やアイデアをぶつけあって形にできたのではないかと自分は思いますが笹口くんはどうだったんだろうか?こんど聞いてみようかなぁ。
ともあれ本作は自分の録音史上最も長く製作に時間がかかったアルバムであり、6月初旬〜8月初旬まで1回5~6時間のセッションを週3~4日くらいのペースで行なわれた。
気がつけば居酒屋でとりあえずビールを頼んだつもりがいつまで経ってもたどり着けない城を目指してしまったかのような気持ちになっていたが、時には慎重に、時には大胆に歩みを進め、その結果無事に一つのアルバムとして完成したのでありました。

もう後は音楽は聴いた人のものですから、ここから先は嬉しい感想をもらえればなによりではありますが、クソだった、前のバンドの方が良かった、みたいな意見でも誰かの口を塞ぐ事はできないし、自分も塞がれたくはないし、自分としては何言われてもやるだけやった!悔いなし!と思う名盤を作れたと自負しておりますのでご意見ご感想もご自由にどうぞ。
そして何らかの形でこの音源を聴いてくれた皆様とこの長ったらしい文章にお付き合い頂いたスクリーンの目の前のあなたに感謝を。

2020年新五輪の旅、是非ともお楽しみ頂ければ幸いです。


以下 あくまで私の主観ではありますが各楽曲についての覚え書きをしたためましたので旅のお伴によかったらどうぞ。

1:MY NATIONAL ANTHEM
ムライくんの弓ギターから和太鼓の音へと繋がるアルバムの冒頭の曲。
架空の国歌を意識した式典っぽい物々しさのある仕上がりになったのではないかと思います。

2:NEO TOKYO
1曲目がオープニング曲だとしたらこの曲が本編の始まりって感じで、本作の世界観を提示するパートを担っているかなと思います。
19XX年第三次世界大戦が勃発、世界は核の炎に包まれた世紀末…からの2020年ネオトーキョー。
当初はライブと同じくエレキベースで録音したが、80年代でテクノロジーが止まってしまったパラレルな未来のイメージが曲の中から浮かび上がってきたのでシンセベースに差し替えたらとてもトレンディなアトモスフィアを獲得する事に成功した。満足だ。

3:NEO TOKYO STATION
荒廃したネオトーキョー駅は巨大ながらんどうとなり夜な夜な違法集会が行なわれるディスコと化してしまっていた!なんということだ!変わらずにいたのは東京駅の主の声だけなのか...!?時代錯誤な909のキックがビンビンだ!!

4:SECRET SHADOW PLAY
2曲目でドイツ車に…との歌詞が出てくるが、この曲の自分のパートはもろにドイツを意識していて昔のドイツのグループみたいに機械的なフレーズを手弾きでブリブリと演奏するのはアウトバーンな感じで実に気持ちが良いです。何故かこの曲を聴くとチャップリンの独裁者の地球のボールで遊んでる場面がいつも頭に浮かぶ。

5:BLUE TRUTH
今回のCD化に伴い追加された新曲。人間を辞めて機械の体を手に入れたメカ・ササグチのメカメカしいボーカルと2:56からの水中に飛び込んだ魚のようなギターが個人的にはお気に入り。

6:NO MUSIC NO DANCE

迷わず見ろよ、見ればわかるさ

7:DANCE GHOST DANCE
アイエェェ!?ダンス!?ダンスのオバケ!?オバケのダンス!?そのどちらなのかはさておき、かつてのダンスミュージックと現代のダンスビートとの対比が肝。幽霊の声はモジュラーで作った。

8:SAMARIA CANARIA
人知を越えたドラムが炸裂するサマリアカナリア、発狂しそうになりながら夜なべしてビートをメイクした。戦車のキャタピラがなんでもなぎ倒してく感じ。この頃、徹夜の事を「小室」と言い変えるある年齢以上の人にしか通じない遊びにハマっていたが冷静になった今ではそんなに面白いと思わなくなってしまった。

9:NEW OLYMPIC
禁断のサンプリングから始まる我々のテーマソングとも言えるこの曲。
ライブではシンセのパッチングで始まる曲なんだけど、空気の中にある電気が可視化できるような音を意識している。
あと、歌詞で"人類みんな金メダル"って中々言えないと思う言葉をさらっと入れる所が憎いなあと思います。

10:STRANGE NEWS FROM ANOTER STAR
全ての異星人たちに捧ぐ 異星人応答せよ

11:NO
ハードオフで衝動買いしたコロムビアのエレクトリックピアノ(3000円)のメロウなイントロに笹オケのスーパートランぺッター、カトさんをお招きして金のラッパを吹いてもらった。
かなり早口なため声の録りに笹口くんはとても苦戦していた記憶がある。
2番のAからはMCジャンボがインダハウスして冒頭は日本一知られているパンチラインから失敬して、半生をカミングアウトしている。冗談のような内容だがどれも実話で自分としては恥ずかしいエピソードが多く、本職のラッパーをfeatして他のリリックに差し替えるつもりだったのだが、人生にはいつでもパンツを脱げるガッツも必要だと思い、最終的にはなんだかんでこれで正解だったと納得している。
"NO NO NO NO NO NO~"の箇所のコーラスはジャマイカ姉妹と言うユニットを結成したが録音終了とともに解散している はかないね

12:...EUREKA GO
ジャケットの胎児?モンスター?(どっちなんだろうね?)って存在の独白のような曲ってイメージ。
ざくざくと穴を掘る音はカシオトーンのサンプラーで作ったのだけど、これは、手話の出来るゴリラに死んだらどこへ行くのかとの問いかけに対して「何も無い穴にさようなら」と答えたと言う実話に感銘をうけて入れたもの。

...てなわけで自分もそろそろ穴に帰りたくなってきたので以上で解説を終わりとします。それでは末永くご愛聴下さい。そしてなるだけ夜更かしせず早く寝ましょう、では、おやすみなさい。